高橋士郎   →空気膜造形

風船について
1984年 多摩美術大学研究紀要 20号

balloonの日本語訳は腑に落ちない。
ゴム風船 球凧 球紙鳶 風船玉 チカ
ガス気球 空船 気球 飛行船 熱気球
空気膜造形 インフレータブル 充気膜

1) 天然の風船  →2)人工の風船 伸びる素材
   
豚の膀胱
1560年『子供の遊び』ピーター・ブリューゲル
豚の膀胱Bladderを膨らませて遊ぶ子供が描かれています。
豚の膀胱は気密性があり、空気を逃がしません。
ゲルマン民族は豚を解体し、殆どの部位を料理に利用したが、食べられない膀胱は子供の玩具となった。
ゴム風船が現れたのは、19世紀になってからのことです。
18世紀の画材屋の絵具容器は膀胱でできています。
牛の腸
ゴールドビータースキンは、牛の腸の外皮を形成する膜です。約
10cmにカットされ、脂肪は温水で洗浄し、ナイフでこするって除去します。
金を箔に加工する際に金を挟む素材として伝統的に使用される。
グラハム・ベルの受話器
[ソーセージ]
1900年「ツェッペリン型飛行船1号機」
牛の腸をなめした膜で作った気密袋17個に水素を充填し、全長130mの外装綿布+骨組アルミニウムの内部に装填した。1908年「セブレスの橋の風」アンリ・ルソー
魚の鰾
魚類は体内の気嚢を膨張/縮小させて、身体の浮力を調整し、水中を自由に遊泳します。
皮革の風船 
動物の毛皮を丸ごと剥いだ皮膜に、息を吹き込んで渡河用の浮袋となります。


乾燥地帯で水を運搬する水袋は、表面から適度に水分が蒸発して、冷却効果があります。
火を起こす皮袋のふいごは古くからの生活用具でありました。
バグパイプ オルガン
動物のディスピレイ行為
「ふぐ」や「かえる」などは、体の表皮を風船状に膨らませて、自己誇示のディスプレイをします。
「グンカンドリ」のオスは喉を膨らませて鳴き声をあげてメスに求愛します。
膜体骨格
ミミズや幼虫は、膜体内の体液に圧力をかけることによって運動をします。
膜体骨格
磯巾着     

風船の植物
「膀胱豆」や「ホオズキ」は、膜状の果皮が果実を包み袋状になります。
「ホテイアオイ」は、葉柄が丸く膨らんで浮き袋の役目をします。

「藍藻」はガス胞を持ち、寒天質で覆われた群体を形成する。
浮遊性藍藻は。富栄養化が進んだ湖沼などにおいて大発生し水面を覆い尽くす
バイオフィルム
石や歯などの表面に付着した細菌は、粘着性ポリマーを排泄し、防護用の膜体を形成します。
バイオフィルムの内部では、細菌・原生動物・藻類など、異なる種が親密に生活し、お互いに助け合って、密度の高い閉鎖的なコロニーを組織します。

超薄膜 
 
   
分子膜の自動生成
疎水性と撥水性の両方を持つ両親媒性分子は、水中で自動的に袋状の二分子膜を形成します。
シャボン球
シャボン球は、水の表面張力と界面活性材の働きにより、表面積の一番少ない形態である球形を形成する。
シャボン球の厚い部分は、薄い部分よりも先に伸びて、膜全体が均一の厚さになろうとするので、分子レベルの薄さまで膨らますことができます。 膜の厚さが分子レベルまで達すると、光の波長が干渉して、虹色の模様となり、さらに薄くなると黒色の斑点が現れて破裂します。
静止しているシャボン球は、重力の影響を受けて、厚さが連続的に変化するので、横縞の虹色になります。
ブロウ成形
高温で溶解したガラスの中に息を吹き込んで作る宙吹きガラスも、極薄い球を作ることができます。高温のガラスの薄い部分と厚い部分では温度差が生じ、温度が高くて厚い部分が先に伸びるので、自動的に均一の厚さとなるからです。
吹き飴 シュクル・スフレ
反対に、ゴム風船の場合は、厚い部分よりも薄い部分が弱く、薄い部分がますます薄く伸びるので、膨らます大きさには限界があります。
天然のチクルにとって代わり、人工の酢酸ビニールが風船ガムの素材となりました。
1998年にはポリウレタン製で良く延びる高性能のコンドームが発売されました。
プラトーの法則
石けん膜は常に3つ接触しており、境界はお互いに 120° の角度を形成する
瑠璃貝や朝顔貝は、足裏から分泌する粘液で、透明な泡の浮嚢を作り、大洋を浮遊する。
泡の味覚
ケーキ、ソフトクリーム、ビールの泡などの泡を含む食品は、軽くふんわりとした独特の食感があります。
スイスチーズを切ると、内部にはチーズアイと呼ばれる多数の泡があります。これは発酵時に発生する炭酸ガスの気泡が固まったものです。
数の子の食感は風船が破裂する快感です。
豆腐の製造工程では、煮沸をする時の泡立ちを抑えるために、表面張力を弱める消泡剤(グリセリン脂肪酸エステル)が添加されます。
ベーキングパウダー
連続発泡
スポンジタワシの気泡穴は、連続して連なっています。
連続気泡構造の製法には様々な発明があります。
金属の発泡

泡消火器 水成膜泡消火器 界面活性剤泡消火器
消火作用は冷却と窒息および抑制による

象の歯磨き


位相空間
風船の内と外
   
界面
混相流
表面張力の上と下
アメンボウは表面張力の上に乗り、ボウフラは表面張力の下にぶら下がります。
表面は、界面の外側にも内側にも存在しています。
風船の中と外
昆虫のたがめは水中に気泡をつくって、その中で生活する。
闘魚ベタやモリアオガエルは泡の巣を造って卵を守る。
内部空間
 
外部空間
発泡ビーズを入れたビニール袋の内部空気を掃除機で吸い取ると、所定の形に固まった構造となる。

負圧の風船
真空包装
包装内の酸素を排除することで内容物である食品の化学的な変質や微生物による変質を抑制する。
ガス置換包装
ふくらませることで、こわれやすいポテトチップスなどの内容物を守る。

無限空間
1970年「大阪万博ペプシ館」EAT
剛体ドーム構造の内部に、アルミ蒸着した巨大な風船を挿入し、剛体ドームと風船の間の空気を吸引することにより、正確な負の球状鏡面を形成しました。
観客は風船の内部に直接自由に出入りすることができます。
鏡状の風船の内部に入ると、不思議な虚像群に囲まれ、予想もつかない場所に自分の姿が見えます。

膜のエントロピ
 
   
透過膜
1503「快楽の園」イェロニムス・ボス
の右扉内側の地獄の場面には、怪物の腰掛ける便座から垂れ下がる灰色の風船が描かれています。排泄される風船膜を透過して、裸体の男女が落下していきます。
水ぶくれ
靴擦れなどで皮膚が剥離すると、表皮内に水分がたまり、風船状の水ぶくれとなります。水分には損傷した組織や、血清やタンパク質などがしみ出ます。
水蜘蛛
水中の泡の内部圧力は、水圧と表面張力により周辺よりも高く、内部のガス、酸素・窒素・二酸化炭素は水中に溶け出す。二酸化炭素は、炭素になって速やかに水中に拡散する。窒素は、最後まで残って泡の形を保つ。虫などが、内部の酸素を呼吸すると、水から酸素が補給される。
生物は細胞からできた、柔軟な袋状の組織できていてます。
卵は柔らかい膜で覆われていますが、排卵の時に堅い殻で保護されます。
水中生物の場合は、その必要がないので、柔らかいまま水中で成長します。
人間は体内の子宮の羊膜なかで成長してから誕生します。
コピー食品
現代では、高分子膜の風船内部に、レタスの芽を栄養剤とともに封入した、クローン植物の人工種子が開発されています。
人造イクラやつぶつぶ入りオレンジジュースは、アルギン酸ナトリウム水溶液を塩化カリウム水溶液に点滴して造るゼリー状の風船の技術を応用して製造するコピー食品です。
 
風船のエントロピ
細胞膜は境界を定めるだけではなく,膜体の内部と外部を移動する物質とエネルギーを調節しています。
人工皮膚
細胞膜と同じ位の薄い人工皮膚は、カニやエビなどの甲殻類の外骨格の「キトサン」成分から作られる、臓器や組織の表面に分子間力で貼付し、20mmHgの圧力までは耐えられる。

風船のメタファー 
 
   
空の御座
イエス誕生以前の、正義と裁きのためのイエスの座を準備する象徴として、風船が描かれています。
結界
1516年『快楽の園』ヒエロニムス・ボッシュ
透明球の中で睦む男女が描かれています
1888「悲母観音」狩野芳崖
1943「新しい人間の誕生を観察する地政学的な子供」ダリ
1568年作のブリューゲル『人間嫌い』では、透明な宝珠の中の人物が、聖職者の財布を盗ろうとしています。
風船は、想念世界を仕切る結界の表象メタファです。
フレーム

モンストランス
象徴元型 Archetyp
幻視的空間
1776『画図百鬼夜行 』

鳥山石燕

1878年「眼=気球」オディロン・ルドン
1883年「気球」オディロン・ルドン

1967年「美しい関係」ルネ・マグリット

アンフラマンス
デュシャンは、二次元から三次元へのパサージュ「アンフラマンス Inframince 」を記しています。

川劇変面 Bian Lian [YouTube] [] []

虚実皮膜
近松門左衛門が唱えたとされる虚実皮膜(ひにく)論は、芸の面白さは実と虚の境の微妙なところにあるという芸術論です。
「九相図」第7白骨連想 塵境は如泡の体なり。
皮にこそ男女の色もあれ骨には変わる跡形もなし。一休禅師
骨隠す 皮には誰も 迷いけん 美人というもの 皮のわざなり。蜷川新左衛門
夢幻泡影
浮遊するシャボン玉は、多くの文学や絵画の中で、儚い人間存在、確実性のない幻想, 妄想を比喩します。
人は誰でも風船が好きですが、風船には価値をみとめません。
人は泡沫(うたかた)のように弱い自分の存在が嫌いなので、永遠の生命や確実な科学、堅固な財産や不滅の芸術に憧れるようです。
方丈記


微細な風船の力学
 
   
人魂
生きている人間は、眼に見えない空気を、身体に出し入れし、死ぬと空気の出入りが止まることから、空間には生命力や聖なるものとして生気が宿っているという概念が生まれた。
空気中の酸素は、肺胞球の表面で血液のヘモグロビンと接触し、血液に運ばれて身体を巡り、全身に元気の元を供給する。
呼吸
肺胞の皮膜は、呼吸した酸素を血液中の赤血球と結合させ、全身に元気の元となる酸素を供給します。元気を放出した酸素は二酸化炭素となって血液中の血漿によって肺胞に運ばれ、空中に排泄されます。
肺胞球
直径0.3mm程の極微細な球体ですので、その表面張力は極めて小さな力です。そのうえ、肺胞の内皮細胞からリン脂質の界面活性剤が分泌されて、表面張力をさらに低下させています。
したがって、肺胞は大気中でも完全につぶれることがありません。

胸腔
肺は、肋骨に囲まれた胸腔の内部にあります。胸腔と肺の間は負圧になっているので、肺は胸腔に未着しています。負圧を維持している漿膜に傷がつくと、大気が肺から胸腔に漏洩して、肺は肺胞の表面張力で縮んでしまいます。

呼吸機構
浮遊への本能
鰓で皮膚呼吸をしていました水中生物は、浮力調整用の気嚢を、肺胞に進化させて陸上に揚がり、肺呼吸をする陸上動物となりましました。
空間遊泳への本能を追求した恐竜は、地上を走り回り、その結果、肺の気嚢の数を増加させて、鳥類に進化しました。
飛ぶことを諦めた恐竜は、肺を退化させた蛇となりました。
鳥は天国を、蛇は地獄を表象します。
「気泡緩衝材エアーキャップ」
径10mm 高さ4mmの小さな気泡が多数連なるポリエチレン製シート
気泡が小さいために、気泡1個あたりの破壊強度は500gf程度に耐えます。
しかも、多数の気泡が連なると、大きな力を発揮します。
「バルーンカテーテル
血管内に挿入して血栓箇所を押し広げる、極微細なバルーンカテーテルを膨らませる為には、0.4Mpaから1.6Mpaもの高圧液が必要です。 (4kg/cm2から16kg/cm2)
但し、そのような超高圧でも極微細な風船ですから、強靭な膜素材である必要はありません。
「セラミックバルーン断熱材」
スペースシャトルが大気圏に再突入する際に、シャトルが燃焼するのを防ぐ断熱体として開発された。

「フラーレン分子 C60」
ナノテクノロジーが炭素原子60個で作った、分子レベルの風船と考えられます。
この分子の風船の中に水素元素を貯蔵して、安全な燃料電池を作る研究がされています。
ウルトラ ファイン バブル
光の波長よりも小さいため、視認できない
上昇速度が遅く、水液中に長期間存在する
負の電荷を帯び、バブルは反発し、結合しない
微細気泡の表面張力により、気泡内が超高圧になる
超高圧作用により、活性酸素などが生成される

巨大な風船の力学
 
   
パスカルの原理
1663年「液体の平衡及び空気の質量の測定についての論述」
密閉容器中の流体は、その容器の形に関係なく、一部に加えられた圧力はすべての方向に等しく伝わり,容器の内側に垂直に働く。
ボイルの法則
1738年「流体力学」ベルヌーイ
気体は激しく運動している多数の粒子からなり、気体の圧力は器壁への粒子の衝突によって生ずる。すなわち、圧力が体積に反比例するというボイルの法則を説明し、また圧力が粒子速度の2乗に比例することを述べた。
スケーリング
風船の膜面張力は、風船の直径に比例します。
風船ビームの曲げ強度は、膜面張力によって決まるので、風船の直径が二倍になると、強度も二倍になります。
同じ直径で、強度を二倍にするためには、内部圧力を二倍にする必要があります。
いずれの場合も、膜面素材に二倍の引っぱり荷重がかかり、破けます。
風船の大きさと、その強度の関係は、常識的な視覚感覚とずれた所があります。

2012年12月2日 中央自動車道
笹子トンネル天井板崩落事故 9名が死亡

ゴム風船を膨らます時、最初は小さいので息を吹き込むのに大変苦労しますが、一定の大きさになると、楽に膨らみます。
息を吹き込んで膨らませた程度の圧力でも、空気膜体の直径が2mを越えると、人が乗っても容易にはつぶれません。
自転車のタイヤチューブの場合、前後2輪で60kgの人が乗る為には、0.5Mpaの空気圧力を必要とします。
同じ内部圧力の場合、大きな風船はぱんぱんに膨れますが、小さな風船は形が不安定でふにゃふにやです。
1986年『昭和記念公園 空気の丘』高橋士郎 特許No.2068787
全長50mの膜体の上に、大勢の子供が乗って遊ぶ風船状の丘
1年間にわたって行われた現場での実験運転の結果、耐久性と安全性が認められ、その後、全国の国営公園屋海外に普及しました。中国の上海月湖雕塑公園 韓国の
動画

1967年「浮かぶ球状都市」バックミンスタ・フラー
直径5kmのジオデシックドームの内部空気が、日の出の太陽光によって暖められ、浮力が生じて上昇するというアイデア

   
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