ムカルナス:回教建築の鍾乳石状装飾 English  高橋士郎

 1)イスファハン金曜寺院の不思議

 


図版:イスファファンのマスジド・イ・ジョメの中庭を囲む三つのイーワーン



図版:マスジド・イ・ジョメの全景


図版:ムカルナス三様式の分布 時空マトリクス

1711「ペルシャ見聞記」シャルダン
1867「ペルシア放浪記」ヴァーンベーリ
1975 Shiro

イスファハンのマスジド・イ・ジョメの中庭を囲む三方向のイーワーンは、それぞれ様式の異なる3種類のムカルナスで装飾されている。

中庭正面に位置をしめる南側のムカルナスは、単純で力強い正方形様式のムカルナスである。

中庭西側のムカルナスは、頂点が5分割の独創的な様式で、白鳳彫刻を見るような、多に類を見ない洗練された造形である。

中庭東側の極座標様式ムカルナスは、中庭南側と中庭西側のムカルナスと較べると、複雑で美的な整合性に欠ける。

このように、中庭を囲む三方向の様式を統一することなく、異なる三つの様式を配置させたことに、どのような意図があるのであろうか。不思議なことに、中庭を囲む三種類の様式の方位関係が、イスラム全地域での三種類の様式が分布する方位関係と一致する。

すなわち、中庭正面の正方形様式は広くイスラム全域に分布し、中庭東側の極座標様式はイスラム地域の東側に分布、中庭西側の独創的な様式はイスファハンの西方に分布する。

この寺院は、イスラム教初期の960年より、12世紀のモンゴル侵略を経て、長年にわたり改修増築が重なっために、その建設年代には謎が多い。

通常、ムカルナスが設置されるイーワーンの床平面は、間口と奥行の比率が2:1の長方形が大多数であるが、この3つのイーワーンの床面比率は共に正方形に近く、多に例がないことから、正方形床面のイーワーンが先に存在し、そこに三様式のムカルナスが後に付加されたと考えてよいだろう。

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