4)シェイディング:光による陰影

 

ランバートの法則

 

ダビンチは手記「絵画論」1436年の中で「光の入射角によって作られる角度が最も直角に近い時、最も明るい光が見られ、それが最も直角から離れた時、最も暗くなる」と記述している。

CGのシェイデイング方法として一般的に普及しているランバートの法則は「物体の表面で反射する光の輝度は、入射と表面に対する法線ベクトルとが成す角度の余弦に比例する」である。

ダビンチの述べている陰影法と、ランバートの法則は全く同じことを説明している。しかしながら、ダビンチは、このように「影」を描くのは良く無いと断っている。ダビンチは、影は描かれる物の形態を歪ませ、描かれる物固有の色を汚すと主張した。

ダビンチは「絵画論」の別の箇所で、広い面積の拡散光源が、形と色を最も美しく見せると主張している。
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ラファエルロの「マリアの結婚」1504年に描かれた16角形の建物の陰影は、ダビンチの記述に忠実に描かれている。背景に描かれているような晴天の日ならば、建物の陰の部分には青空の拡散光が反映して、単純な暗色とはならないはずであり、建物と風景との間に光の整合性はない。

ランバート法のCGコーネル大学「影の成生」1978年では、光の当たらない陰の部分はデータ無の暗黒となってしまう。したがって、光のあたらない陰の形を可視化する為に、あいまいな環境光を全体に加味する。同様に、光を受け止める物が存在しない背景部分も、宇宙空間のような闇となってしまう。
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ラジオシティ法

パチオーリ著Luca Pacioli(1445-1514)「神聖比例」1499年の挿絵としてダビンチが描いたプラトンの立方体には、美しい陰があるだけで、影は描かれていない。

ダビンチの「モナリザ」1505年にも明確な影が描かれていない。画面は影のない光によって照らされている。すなわち、ルネッサンス期の透視図法が、見る者の視点を原点として形を決定するのと同様に、ダビンチの絵画は、見る者の視点から発する仮想の光が画面の主調光となっている。

ダビンチの考える優美で曖昧なぼかし陰影法に近いCGアルゴリズムは、ラジオシティ法のCG「構成派の美術館」コーネル大学1987年である。ラジオシティ法は、面が受ける光の量と、その面から発する光の量のバランスを、全ての面の間で相互に計算を繰り返して、拡散する間接光の柔らかい効果を表現する。
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ダ・ヴィンチの科学的な思考にもかかわらず、実際に彼が描いた「モナリザ」の光源位置はてんでバラバラで、ちっとも科学的ではない。ルネッサンス期の透視図法が、見る者の視点を原点として形を決定するのと同様に、ダビンチの絵画は、見る者の眼球から発する仮想の光が画面の主調光となっている。モナリザのスフマート法は一見CGのラジオシティ法に近いが、むしろ、ダ・ヴィンチの選択した光は科学的な光ではなく、芸術的な光であったと云える。

[Lit Sphere Shading]

 

伝統的な三次元CGは、柔軟性を欠いている。

照明球陰影法は、芸術家によって達成されるような、光、深さ、および印象を与える陰影モデルを、容易に発生させ、 皮膚、金属、または塗装された物などの材料の非フォトリアリスティックな表現をめざす。